NTTジャパンラグビー リーグワン2024-25
プレーオフトーナメント準決勝
2025年5月25日(日)14:30 秩父宮ラグビー場 (東京都)
埼玉パナソニックワイルドナイツ vs クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
クボタスピアーズ船橋・東京ベイ
まっすぐに進んだその先で、道が沈黙を教えてくれることがある。立ちはだかる分厚く高い壁は、進む者にしか訪れない、静かな通過儀礼である。
「初めての経験かもしれないです」と、江良颯は言う。これまでのキャリアで、自分のポジションを脅かす存在はいなかった。だが、昨季加入したクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)には、異なる世界線が広がっていた。そこには、世界最高峰フッカーの一人、マルコム・マークスがいた。
「ナンバーワンプレーヤーのすごさをあらためて感じました。コリジョンやセットピースだけでなく、ボールを持っていないときの動きなど、すべてにおいて勉強になります。まだまだ自分には足りない部分、通用しない部分があるんだと痛感しました」
今季序盤、S東京ベイは逆転勝ちを重ねながら白星を積み上げていった。後半に投入されるマークスやオペティ・ヘルら“ボムスコッド”が試合の潮目を変え、その前段を支えたのが先発2番の江良。「自分のやるべきことをやってチームに貢献する」姿勢は、「自分たちが戦い続けるからこそ、後半の勢いにつなげられる」という実感へと変わっていった。
だが、第11節・浦安D-Rocks戦では歯がゆさを味わう。前半は無得点。江良はそこで入替を告げられ、静かにピッチをあとにした。かみ締めたのは、役目を果たした実感ではなく、自身への不甲斐なさだった。
「自分自身のプレーはそこまで悪いわけではなかったんですが、『ただプレーをしているだけ』という感覚に陥っていました。そして、後半にマルコムが出てきて、チームに勢いがついた。とても悔しかったです」
ただ、マークスと時間を重ねる中で、あらためて気づかされたことがある。「最初は、すべてを完璧にやろうとしていました」。しかし、そこで学んだのは、完璧を求めるのではなく、やるべきことを積み重ねることの重要性だった。
そうした中で、見つめ直した自身の強み、それはスクラムワーク、低さ、そして速さ。その本領の片鱗が見えたのが、第17節・埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)戦だった。試合は痛み分けに終わったが、S東京ベイは後半に怒とうの追い上げを仕掛けた。
「ピッチに立つからには、マルコム(・マークス)以上のものを出さないといけないです。あの試合では(途中出場から)トライも取りましたが、ディフェンスでは相手にフェーズを重ねられる中で、取られた場面もありました。自分としては、まだまだです」
その「まだまだ」を晴らすときが、ついにやってきた。迎える準決勝。埼玉WKとの再戦が待っている。
「これまで積み上げてきたもの、すべて出し切ろうと思っています」
あの壁に遭遇した日から、江良は自分という選手を明確に再構築してきた。その歩みの答えを、ピッチの上に刻む。
(藤本かずまさ)