NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1(リーグ戦) 第5節 カンファレンスA
2023年1月22日(日)14:30 相模原ギオンスタジアム (神奈川県)
三菱重工相模原ダイナボアーズ 27-27 静岡ブルーレヴズ
決まれば逆転のコンバージョンキック。キッカーが外したあとに見られた「絆」の光景
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1の第1クール最後の戦いとなる第5節、三菱重工相模原ダイナボアーズが静岡ブルーレヴズをホストスタジアムである相模原ギオンスタジアムに迎えた。
試合は静岡ブルーレヴズがペナルティキックで敵陣に深く入ると、得意とするモールやスクラムで優位に立ってトライを奪う展開。そして、南アフリカ代表30キャップのクワッガ・スミスの強いタックルやジャッカルなどで三菱重工相模原ダイナボアーズの攻撃を抑え込む。
タウモハパイ ホネティとウォルト・スティーンカンプが負傷交代し、劣勢が続く中でも、三菱重工相模原ダイナボアーズは持ち前の粘り強いディフェンスを維持。相手のペナルティにも助けられながら、ジェームス・シルコックがキックで得点を重ねて追いすがり、残り4分ほどで1トライ差(5点差)にもつれ込んだ。
三菱重工相模原ダイナボアーズは、ここまでディフェンスをなかなか突破できなかったが、何度もアタックを重ねると、最後はブレイクダウンから素早くボールをピックしたヘンリー ブラッキンがターンで相手選手をかわし、腕を伸ばしてグラウンディング。試合時間残り30秒、TMO(テレビジョンマッチオフィシャル)でトライが認められた。
まさに劇的な展開。だが、三菱重工相模原ダイナボアーズは最後の攻防を想定し、プレシーズンに「吐いてしまう人もいれば、足が攣ってしまう人もいる」(岩村昂太)と言うほど高強度のボールゲームで準備をしてきたという。
ラストプレーは決まれば逆転勝利のコンバージョンキック。キッカーのジェームス・シルコックはこの日、タッチライン際の難しい位置を含めすべてのキックを決めていた。しかし、7本目のキックは枠外へ。頭を抱えるジェームス・シルコックにチームメートが駆け寄る。
その場面を振り返り、岩村昂太は「シル(ジェームス・シルコック)のキックがなければ、逆転のチャンスすらつかめなかった。リスペクトしているからこそ、みんなで慰めにいった。ああいう時こそチームの色が出るというか、自分がキャプテンとして見ても、いいチームだなと。こういう絆はこれからのシーズンにつながっていくと思います」と明かした。
三菱重工相模原ダイナボアーズは、序盤戦を3勝1分1敗の5位。「ここ(記者会見)で楽しく話すのは自分ですが、自分以外のみんながハードワークをしているから、こういうところまで来ることができた」とグレン・ディレーニー ヘッドコーチも話すように、ここまでは満足のいく結果を残すことができている。
中盤戦以降どんな戦いを見せてくれるか。この先も楽しみだ。
(宮本隆介)
三菱重工相模原ダイナボアーズ
三菱重工相模原ダイナボアーズ
グレン・ディレーニー ヘッドコーチ
「引き分けという結果ですが、自分たちがボーナスポイントを取れないところから、最後の5、6分で自分たちの粘り強さを見せることはできました。観客も楽しめる最後だったと思います。本当にエキサイティングな終わり方でした」
──本日でNTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン1の5試合目を終えました。あらためて、チームの強みを教えてください。
「おっしゃるように、ここでブロック1が終わりという認識だと思いますが、われわれ三菱重工相模原ダイナボアーズが今シーズンやりたかったのは、自分たちのベストパフォーマンスをみんなに見せるということです。三菱重工相模原ダイナボアーズはハードワークを大事にするチームですし、三菱重工もハードワークを大事にする会社です。それをみんなに見せていると思います。自分たちは過去からいろいろ学べるところがあります。毎日毎日、学びの日だと思っています。今日も静岡ブルーレヴズさんのすばらしいレッスンから学ばせていただきました。プレーやフォワードの粘り強さを学びました。自分たちは少なくともハートはある、他のチームよりハードワークができるというところを見せることができたかなと思います」
──試合の最後に追いついた最大の要因はどう考えていますか?
「選手たちのキャラクターの素晴らしさだと思います。あきらめない粘り強さがありました。いつでもなんでも可能という考え方で、ポジティブにプレーしていました。今日のようなタイトな試合のときも自分たちが練習してきたプレーができました。オフロードパスなどを投げられるようなラグビーができました。自分たちがどういう状況でもポジティブにプレーできる、前向きでいられるというところは大事なことだと思います」
──プレシーズンの間、ボールゲームでフィットネスを培ってきたということですが、どのくらいの頻度、強度、時間でやっていたのが、今日のゲームにつながったのでしょうか。
「ボールゲームをやることで、周りのチームメートたちがどういうプレーをするのかを学ぶこと、そのつながりを作ることも大事ですが、疲れた状況でもプレーできるようにするということが大事です。最後の1分のところでも、みんなが自分たちのプレーを信じてできたのは、そういうハードな練習をしてきたからだと思います。そういうところにつながってきています」
──今クールを終えた時点でグレン・ディレーニー ヘッドコーチはあまり順位を気にされていないかと思いますが、上半分の順位につけているという現状をどういうふうにお考えでしょうか。
「そのように言ってくれることはすごくうれしいことですが、そこもあくまでも外から見ること、外の人たちがそこを見ることが大事だと思います。自分たちはここでリーグ戦をしているので、勝点を取ることが大事ではありますが、自分たちが一番そこで見せたいのは、どれだけトレーニングをハードにしているのか、どれだけ仕事ができているのか、どういう姿勢でみんながプレーしているのかというところです。それをリーグの順位で表せることができると思います。自分は運良く、素晴らしいスタッフがいてくれて、素晴らしい選手と一緒にこうやって仕事ができています。ここで楽しく話すのは自分ですが、自分以外のみんながハードワークをしているから、こういうところまで来ることができたと思います。そこは自分たちの努力が少しずつ見えてきたというところはあるかもしれません。そういう感じで外からみんなが見てくれるのはうれしいことです」
──最後、劇的に追いつく展開でしたが、静岡ブルーレヴズに主導権をとられている状態が続いていました。あらためて、その要因、足りない部分があったらお聞かせください。
「おっしゃるとおり、79分まで相手チームが主導権を持っていたと思います。静岡ブルーレヴズは素晴らしいチームです。僕たちにとって大きなチャレンジになるということはわかっていました。その理由の一つは、僕たちと似ているチームである、鏡を見ているような感じがするところがあるチームだからです。ハードワークをしますし、僕たちのここまでの対戦相手とは違うタイプです。自分たちも相手をリスペクトし、いい準備をしたと思います。プレシーズンには合同練習をして、セットピースのところで1回戦うことができたので、そこでもいろいろ準備ができたと思います。相手は素晴らしい試合をしましたし、試合のほとんどの部分をコントロールしていたと思います。相手のプレーが良かったということがその理由かなと思います」
三菱重工相模原ダイナボアーズ
岩村昂太キャプテン
「グレン・ディレーニー ヘッドコーチも言ったとおり、最後に追いつけたということは、僕らにとってとてもポジティブでした。ただ、試合をとおして、セットプレーやブレイクダウンのところでプレッシャーを掛けられて、われわれの思いどおりのラグビーができなかったというのは反省点なので、今後に生かしていきたいと思います」
──試合の最後に追いついた最大の要因はどう捉えていますか?
「要因としては、プレシーズン、ボールゲームでフィットネスをみんなで培ってきたので、そういったところを最後の5分、全員で出せたのかなと思います。プレシーズンでやったボールゲームをやっているかのような最後の5分間だったと思うので、そういったやってきたことが出せたというのがあの5分間につながったのかなと思います」
──「ボールゲーム」ということですが、プレシーズンの間、どのくらいの頻度、強度、時間やっていたのが、今日のゲームにつながったのでしょうか。
「ずっとやっていました。毎練習のように。練習の最後だったり、練習の間で、ボールゲームを挟んで。ただ、ボールゲームというと楽しそうな言葉かもしれませんが、実際にはそんなことはなくて、吐いてしまう人もいれば、足が攣ってしまう人もいます。そういうのを全員でやってきたというのが、いまにつながっていると思います」
──高強度で、長時間もやるものなのでしょうか。
「日によって、ヘッドコーチが決めています」
──最後は劇的に追いつく展開でしたが、静岡ブルーレヴズに主導権、リードを許している状態が続いていました。あらためて、その要因、足りなかったと思う部分があったらお聞かせください。
「ディレーニー ヘッドコーチが言ったように、静岡ブルーレヴズさんは泥臭く、ハードにフィジカルにくるチームと事前に分析していました。それを受けてしまうと僕らも食われるぞと思いながら試合をやっていました。実際、最初のほうはブレイクダウンで受けに回ってしまったり、スクラムのところでプレッシャーを掛けられたりしてしまったので、そういったところが、主導権を握られた要因かなと思いました。ただ、そこで崩れなかった。僕らの仕事に集中できたところは良かったと思う点です」
──ジェームス・シルコック選手がそれまですべてのキックを決めていたのに、最後の1本を外して終わりました。その時、三菱重工相模原ダイナボアーズの選手みんなが彼のところに集まっていったのが象徴的でした。身近でプレーされていて、彼にどういう信頼を置いているのでしょうか。
「見ていただいておわかりのように、シル(ジェームス・シルコック)はスキルフルな選手で、チームからの信頼もあります。シルのキックがなければ、まず最後、逆転までいけるチャンスすらつかめなかったと思います。全員、そういうリスペクトを置いている中で、最後に外してしまった。リスペクトを置いているからこそ、みんなで慰めにいった。ああいう時こそチームの色が出るというか。みんなが駆け寄っていったので、自分がキャプテンとして見ても、いいチームだなと思いました。こういう絆はこれからのシーズンにもまだまだつながっていくと思います。ただ、シルには感謝したいです。いいキックだったので」
静岡ブルーレヴズ
静岡ブルーレヴズ
堀川隆延ヘッドコーチ
「今日のゲーム、引き分けという結果でしたが、自分たちのスタイルを発揮できたいい試合だったかなと思います。スクラムをしっかり押して、セットピースからアタック、ディフェンス、プレッシャーを掛けて。ただ、本当にいま、こういう苦しいチーム状態の中で、前節から改善を図って、クワッガ・スミス共同キャプテンを筆頭にリーダー陣がチームを引っ張り、いい準備をしてきたので。足りないものは何かと言えば、自分たちのペナルティですね。17個くらい自分たちのペナルティがあったと思います(試合記録では16)。そこをしっかり冷静に見つめ直して、次のNECグリーンロケッツ東葛戦に向けていい準備をしていきたいと思います」
──チームとしては苦しい状況で今節に臨む中、チームに対してどのようなメッセージを伝えたのでしょうか。
「今週、すべてのスタッフたち、ノンメンバーも含めたすべての選手たちと腹を割っていろいろな話をしました。自分たちに何が必要なのか、いま自分が思っていること、感じていることを共有する時間を今週のはじめにもちまして。その中で、やるべきことは自分たちのスタイルをやり切ること。ファイブハーツと言われる自分たちの哲学の一番上にあるセットピースのところ。ここに自分たちは立ち返るというところに対して、一人ひとりが責任を持って遂行する。ただそこだけにフォーカスして今週はやってきました」
──最初に「チーム状況が厳しい中」とおっしゃいました。結果が出ていない以外に、けがなどでメンバーに入れられない選手はどれくらいでしょうか。来週、どのくらい戻ってくる見込みがあるのでしょうか。また、今日の試合の中で、日野剛志選手がリッチモンド・トンガタマ選手に交替したのは、調子が悪くなったりしたからなのか、戦術的な狙いがあったのか、お聞かせください。
「開幕から4戦、5戦、主にバックスですね。バックスの選手がスターティングメンバーで5、6名。来週、一人くらい帰ってくると思いますが、けが人のところはそういうチーム状況です。日野選手の交替については、リッチモンド・トンガタマ選手も素晴らしい選手ですし、ここからフェイズはアタック、ディエンスでどれだけ粘れるかという時間帯だったので、日野選手のパフォーマンスを見て、トンガタマ選手に期待も込めて、交替させました」
静岡ブルーレヴズ
クワッガ・スミス共同キャプテン
「まずは、三菱重工相模原ダイナボアーズのみなさん、本当に素晴らしいいいチームであると思いました。私たちも今日の試合にはもちろん勝利を目指して臨んだのですが、なかなか難しいところもありました。でも、その中でもしっかりと『レヴズスタイル』を発揮して、そして自分たちの強みを生かしたプレーができたと思います。われわれ選手たちも一所懸命ハードワークで取り組みました。そしてあきらめることなく、最後までやり続けることができました。一歩前進したというふうに感じています。また、堀川ヘッドコーチが言ったように、私たちチームのディシプリンというところで、一週一週、そこにしっかりフォーカスして取り組みながら、そこを成長させていきたいと思っています。そしてこのシーズンの中でしっかりと立て直していきたいと思っています」
──ブレイクダウンのところで何度もターンオーバーするなど、非常に素晴らしい、クワッガ・スミス選手らしいプレーを見せてくれたのですが、それでも勝利に届かないというのは悔しいところでしょうか。
「個人的にも、毎週毎週自分の力をもっともっと成長させていこうと取り組んでいますけれども、それをする中で、またチームの中でも、自分がしっかりと模範となって、規範となって引っ張っていこうと思っています。自分の強みではありますが、それにも常に磨きをかけようと思っています。そしてチーム全体で向上していくことによって、しっかりとチャンスを生かせるように、チャンスをつかめるようにしていきたいと思っています」
──今日の試合はアンガス・ガードナーさんがレフリーを務められました。クワッガ・スミス選手が出場したテストマッチで、おそらく何回か笛を吹いていたと思います。アンガスさんとどういうふうにコミュニケーションをとって、どういうふうに試合を進めていこうと、そういう考えはありましたでしょうか。
「アンガスさんは素晴らしい国際的なワールドクラスのレフリーであるということで、彼にとっても日本でのレフリーの経験は良い経験になっているのではないかなと思います。それと同時に、日本ラグビーにとっても、彼のようなレフリーを迎えて試合ができるということは素晴らしい経験になっていると思います。われわれリーグワンのチームも、そういった国際レベルのレフリーのやり方に慣れたり、そこから学んだりすることができるという良い経験になったと思います。また、レフリーは試合に対して影響を与える存在ではありますが、その中でもしっかりと自分たちのラグビーにフォーカスしていくということ。そのレフリングにしっかり順応しながら、自分たちのラグビーにフォーカスするということにも取り組めた、良い経験だったと思います」
──今日の試合でペナルティが多かったのは、普段の日本のレフリーと基準が異なって多く取られてしまったのか。そのあたりがあれば教えてください。
「今日の試合に関しては、選手たち全員、自分たちの気持ちを高めていて、そしてその分、やらなきゃというプレッシャーも感じながら、その中で一所懸命必死になってやっていました。そういった意味で、度が過ぎてしまったというところがペナルティの数につながってしまったと思います。それは純粋に選手たちの気合いがちょっとあり過ぎたという形になったと思います」
──レフリングの基準としては、いつもと変わらないということですか。
「レフリングは毎週、レフリーによって変わってくるものなので、そこの影響ということではなくて、やはりどんなに気持ちが高まっていても、やり過ぎずに規律の中でプレーができるようにしていく、そこにフォーカスすることが必要だったということに尽きると思います。その中で修正していくべきだったと思います」