クリタウォーターガッシュ昭島(D3)
鼻っ柱を折られた試合からの再起。誰にでも教えを請うてきたからこそ、ここでつかんだ先発機会
NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23 ディビジョン3の最終節。クリタウォーターガッシュ昭島(以下、WG昭島)は、中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)を荻野運動公園陸上競技場に迎える。WG昭島は入替戦進出がすでに決まっている中での試合だけに、このあとの大一番を見据えた戦いとなる。
その入替戦に向けた大事な一戦で、第8節のマツダスカイアクティブズ広島戦以来のスタメン入りを果たしたのがフッカーの北條耕太だ。北條は言う。
「あの試合はスクラムから流れをつかむことができなかった。それまでの試合は自信をもってプレーできていたが、鼻っ柱を折られた試合でした。前半のみで交代させられて、めちゃくちゃ悔しかった」
それから数カ月、あのときの悔しさを胸に、誰よりも遅くまでグランドに残り、練習を続けた。
北條の経歴は異色だ。天理高校入学当初はスクラムハーフ。現在のチームメートで、スタンドオフの林田拓朗とコンビを組んだ。高校2年から天理大学3年まではフランカーとしてプレーし、フッカーに転向したのは大学4年からになってから。
「大学4年で初めてフッカーを務めることになったときの、自分にとっての師匠は後輩(リコーブラックラムズ東京の佐藤康)です」。いわばベテランのフッカー初心者だった北條は、WG昭島に入ってからもチームの先輩フッカー・前田篤志にフッカーとしてのいろはを学んだ。
「前田さんと一緒にプレーできたのは大きい。フッカーとして、細かいスキルを教えてくれた」。北條が成長を続けてこられたのは、先輩、後輩の垣根なく、誰にでも教えを請い、アドバイスを求める姿勢があったからこそ。そして、その努力の成果が、スタメンを勝ち取ったいまにつながっている。
北條は続けて言う。「この試合はスクラムで圧倒して、ペナルティをとって、モールでトライをしたい。プレーヤー・オブ・ザ・マッチも狙っていきたい」。高みを目指すチームの一員として、強い決意をもって、目の前の試合に臨む。もちろん、入替戦でのスタメンを狙うための絶好のアピールの場であることも忘れない。北條耕太。遅れてやってきたヒーローから目が離せない。
(匂坂俊之/Rugby Cafe)
中国電力レッドレグリオンズ(D3)
どんなときも変えぬ「人生を豊かにする」姿勢。大義を持って、最終戦へ
「人生を豊かにしよう」。中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)の岩戸博和ヘッドコーチが今季、言い続けてきた言葉だ。
「ラグビーだけじゃなく仕事も家庭もプライベートもあって、全部充実してほしいと思っている。その中でラグビーが自分の人生を豊かにするためには、毎日100%でやっていこうということ。ラグビー人生はそんなに長いわけではないし、とにかく1日1日を大事にしてほしいという思いでその言葉を使っています」
中国RRは日本人選手全員が中国電力の会社員で、仕事とラグビーを両立する日々。そんな中でも、岩戸ヘッドコーチは「限られた時間の中で漠然とやるだけではなく、何をしないといけないのかをそれぞれがフォーカスして、しっかり積み重ねてほしい」と期待を込める。仕事もラグビーも実直に取り組むからこそ人生は豊かになる。
33歳の藤崎健大は2012年に入社して今年で12年目。職場や家庭の環境の変化にも合わせながら、仕事とラグビーに取り組んできた。両立が難しいときがあっても、「ラグビーがあるから逆に救われている人もいる」と話す。
「仕事が忙し過ぎても、練習に来ると気持ちがスッキリしたりする。同じ会社だけど、上司と部下みたいな関係ではなく、やっぱりチームの仲間なので、話をするだけでも気持ちが違う」
チームは仲間と仕事の悩みを話し合い、ともに汗を流せる居場所だ。働きながらラグビーをプレーしている選手たちだからこそ生まれる絆もある。
「(脊川穏)前監督は『戦うサラリーマン』って言っていたんですけど、仕事をフルタイムでやりながら練習もして、その中で勝ちを目指している。だからこそ、より一体感があると思う」
今季最終戦の今節は、クリタウォーターガッシュ昭島とのビジターゲームに臨む。すでに入替戦進出はなくなったが、勝ち点5を取れば、順位が一つ上がる可能性を残している状況だ。
岩戸ヘッドコーチは「消化試合には絶対しない」と力を込める。どんなときでも「人生を豊かにする」の姿勢は変わらない。
「勝って最後を締めるのはもちろんですけど、やっぱり選手の成長につながる試合にしないといけない。選手たちには、この試合にどんな意味があるのかを自分たちがしっかり考えて、大義を持ってやっていこうと言っています」
今季ラストマッチにも全力で挑む“戦うサラリーマン”たち。グラウンドで仲間と流した汗が人生を彩ることを知っている。
(湊昂大)