2024.04.28NTTリーグワン2023-24 D1 第15節レポート(BL東京 36-27 東京SG)

NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24 ディビジョン1(リーグ戦)第15節 カンファレンスA
2024年4月27日(土)12:05 秩父宮ラグビー場 (東京都)
東芝ブレイブルーパス東京 36-27 東京サントリーサンゴリアス

訪れたチャンスで発揮した“自分色”。
控えめで誠実な司令塔は、迷わず前へ進んでいく

東芝ブレイブルーパス東京の中尾隼太選手。プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された

東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)は4月27日、秩父宮ラグビー場で東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)を36対27で破り、リーグ戦2位通過を確定させた。

同じ東京都府中市をホストエリアとするライバルとの一戦で、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたBL東京の中尾隼太は落ち着いた口調で試合を振り返った。

「自分にしかできない、“自分色”のゲームにしようと考えていました。ラインにアタックする、スペースに蹴る、みんなとコネクトしてコミュニケーションを取る……そういうところを意識してゲームに臨みました」

2022年11月のフランス代表戦で日本代表初キャップを獲得した中尾は、ゲームコントロール能力の高さと、鋭いタックルでラグビーワールドカップ2023フランス大会への出場も期待されていたが、プレーできない期間が2~3カ月にも及んだという脳震盪や、再三のけがに悩まされ、BL東京でも出場機会を減らしていた。

それでも、トッド・ブラックアダー ヘッドコーチが「練習で高いスタンダードを見せてくれて、来るべきチャンスに対して全力で準備を続けてくれました」と語ったように、中尾は黙々と、真摯にベストを尽くしてきた。

この日、中尾は前半2分に先制のペナルティゴールを決めると、19分には相手ディフェンスの裏にキックパスをとおしてニコラス・マクカランのトライを演出。後半11分にはジョネ・ナイカブラのトライをアシストし、26分にはカウンターアタックをしかけてマイケル・コリンズのトライにつなげた。

もどかしい日々を乗り越えて、大車輪の活躍。試合後にプレーヤー・オブ・ザ・マッチが発表されると、温かな拍手が中尾に降り注いだ。

「苦しい時期もあったのですが、あきらめずに頑張ることが大事だと思っていて、こういうときが来るまで頑張り続けることを意識していました。少し前に進んだかなと思います」

一時は「自分らしさを見失っていた部分もちょっとあった」と振り返ったが、もう迷いはない。控えめで誠実な司令塔は、これからも自分の色を出しながら、チームの魅力を引き出していく。

(安実剛士)

東芝ブレイブルーパス東京

東芝ブレイブルーパス東京のトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(右)、リーチ マイケル キャプテン

東芝ブレイブルーパス東京
トッド・ブラックアダー ヘッドコーチ

「選手たちのパフォーマンスが素晴らしくて、この上なく誇りに思います。前半、14人になる時間帯がありましたが、29フェーズを守ったシーンは、選手たちがお互いのためにどれだけハードワークをして、どれだけ体を張れるかを表していたと思います。マインドセットも完璧な準備ができて、ディフェンスからのアタックで効果的にスコアにつなげることができました」

──リーグ戦2位が確定したことと、今日の反省点について、それぞれ教えてください。

「今日の学びとしては、もちろんうまくいかない部分もあるのですが、それ以上にすごく良かった部分にフォーカスして、強みをさらなる強みにしていこうという確信をもつことができました。プレッシャーを掛け合うような厳しい試合でしたが、ディフェンスでどれだけ体を張れるかが分かったのは大きな収穫です。相手にトライラインを越えさせないという思いが伝わってきました」

──後半20分ごろまでにリーダー陣を交代させましたが、どのような意図でしょうか?

「リーチ マイケルはけがから戻ってきたところなので、最後まで追い込み過ぎないようにという意図がありました。出場した60分で相手を粉々にするような接点での働きぶりを見せてくれて、接点でどうあるべきか、を体で表現してくれました。リーダー陣の交代は早いタイミングにはなりましたが、チームのメンバー全員を信頼しているので不安はありませんでした。リーチはリハビリから戻ってきて、先週の試合で40分、今日は60分出て、徐々に積み上げています。こちらが何もしないと勝手に自分で追い込んでしまうので、関与しないといけません(笑)」

──スタンドオフの中尾隼太がプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれました。今季は出場機会が少なかった選手ですが、彼のプレーの評価を教えてください。

「試合メンバーの23人が注目されがちですが、私たちが『K9』と呼んでいる試合に出られないメンバーも、高いスタンダードで練習を重ねています。いまのチームの選手層の厚さは、その表れだと思います。中尾はこの2シーズン、脳震盪やけがでチャンスを得られず、苦しい2年間を過ごしていました。その中でも練習で高いスタンダードを見せてくれて、来るべきチャンスに対して全力で準備を続けてくれたのが今日につながったと思います。個人的に、彼が10番としてチームをリードしてくれた姿に感銘を受けました。彼だけではなく、『K9』のメンバー全員の努力を体現したようなプレーでした」

──3週間後のプレーオフトーナメント準決勝で東京サントリーサンゴリアス(以下、東京SG)とまた戦う可能性がありますが、難しさはありましたか?

「難しさはまったくありませんでした。プレーオフトーナメントのことは考えずに、リーグ戦最後のホストゲームにおいて、素晴らしいメンバーでどれだけ良いパフォーマンスができるかにフォーカスしていました。結果として(プレーオフトーナメントで)再戦になっても、今日の試合から自信と学びがありました。それは東京SGさんも同じだと思っています」

──東京SGの攻撃のテンポを遅らせていましたが、プランどおりでしょうか?

「良い準備に尽きると思います。リーダー陣、タイ・リーバ DFコーチが分析した上でどこに注力すべきかを決めて、チーム全員で準備してくれました。練習では、フィジカルの部分でしっかりできていなかった部分もありましたが、今日の試合では選手たちがしっかりしたマインドセットをもってきてくれました。東京SGさんはブレイクダウンを強みにしていますし、大きなチャレンジでしたが、選手たちが正しい位置に入って、正しく体を当ててくれました。両チームともスピーディーな展開を標ぼうしているチームなので、ブレイクダウンでプレッシャーを掛けられたのはうれしい結果です」

東芝ブレイブルーパス東京
リーチ マイケル キャプテン

「“府中ダービー“らしい、“府中ダービー”でした。接点のところで東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)の激しいディフェンス、東京SGの連続攻撃。それを繰り返して、繰り返して、繰り返して……、タフな試合でした。結果的に勝つことができて良かったと思います。今週の練習を振り返るとコンタクトが良くありませんでしたが、試合が始まってからは一人ひとりが責任を果たしました。BL東京として新しいスタンダードができたので、このスタンダードを(プレーオフトーナメントを含めて)あと3試合継続できるようにがんばります」

──リーグ戦の2位が確定したことと、今日の反省点について、それぞれ教えてください。

「2位が確定したことをうれしく思います。シーズンを振り返ると、タイトな試合を勝ち切った、ギリギリで守り切った試合もあったから2位になれたと思います。埼玉パナソニックワイルドナイツさんに一度負けてから、いろいろ学ぶことができました。今日の反省点は無理してアタックしてしまったところがありました。東京SGさんはアタックをしたいチームなので、もっと蹴って、エリアを取って、その上でディフェンスをすれば良かったかと思います」

──プレーオフトーナメントで再戦となれば、東京SGはブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)を修正してくると思いますが、どう対処しますか?

「東京SGさんは接点にフォーカスしてくるチームなので、接点で勝たないとラグビーはできません。自分たちの強化としては、接点の重要性にもう一回フォーカスしてやっていきたいと思います」

──「新しいスタンダートができた」とおっしゃっていましたが、詳しく教えてください。

「ディフェンスでは、『(ライバルの)東京SG相手だからこういうディフェンスができた』とはせずに、シーズンをとおしてこのスタンダードでやっていきたいです。今日はシンプルにダブルタックルに入って、ボールに働きかけていきました。どれだけハードにできるのか、どれだけ体を張れるのかが『東芝のDNA』なので、ここからスタンダードを落とさないようにしたいと思います。練習から同じ強度でやる必要があるかどうかはコーチ陣と相談します」

──プレーオフトーナメントで東京SGと戦うことになっても、今回の勝利で自信を持てたのではないでしょうか?

「自信は持っています。ただ、東京SGさんは絶対に変えてくるので、そこは準備しないといけません。『やられたあとのサントリー』が一番怖いので」

東京サントリーサンゴリアス

東京サントリーサンゴリアスの田中澄憲監督(右)、堀越康介キャプテン

東京サントリーサンゴリアス
田中澄憲監督

「“府中ダービー”ということで注目度も高かったと思いますし、お互いのプライドと意地がぶつかり合う試合になったと思います。BL東京さんのフィジカリティー、強さは分かってはいましたが、やっぱり強かったなというところです。ただ、トライ数で言うと5本(BL東京)対4本(東京SG)でもあります。自分たちの我慢を続けるアタックができればスコアできることが分かったのはポジティブな部分でした。最終節でフィジカル(が特徴)なチームのクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(以下、S東京ベイ)戦が残っていますが、今日大きな学びを得たのでここから成長して、BL東京さんにまたチャレンジしたいと思います」

──ディフェンス面の評価はいかがでしょうか?

「簡単にトライを取られた場面があったのですが、自分たちのシステム自体は悪くなかったと思います。ただ、システムの中で空いてしまう穴をうまく突かれました。そこを学びにして、自分たちのディフェンスにとってどのような脅威があるかを理解して、予測していくことが大事になります。(ディフェンスライン裏へのチップキックは)選手たちのあのリアクションだと、想定できていなかったと思います。想定できていれば2回やられないので。カウンターアタックで取られたトライも、コベルコ神戸スティーラーズ戦で取られたときと同じだったので、自分たちのディフェンスシステムの課題が明確になっています」

──ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)から良いボールが出るときと、そうではないときの差はどこにあるのでしょうか?

「BL東京さんは大きな選手が多いので、ボールキャリアーが抱え込まれて、時間を稼がれたのが一つあると思います。今週はチョークタックル(上半身へのタックル)をされたときの対処法に取り組んできましたが、まだ自分たちのモノにはなっていませんでした。アタックラインの幅など課題はほかにもありましたが、大きなところで言うとブレイクダウンへの対処法はしっかりしないといけません」

──BL東京とは、次にプレーオフトーナメントの準決勝で戦う可能性がありますが、どのように戦いますか?

「(戦い方としては)二つあると思います。どちらを選択するか……。しっかりと映像を含めてレビューをして、セミファイナルまで3週間あるので、その期間で向上できることを見極めて、選択していきます」

──後半に途中出場の宮﨑達也選手がトライしました。彼のような苦労人が奮起したことについてはいかがでしょうか?

「彼は昨季から加わったのですが、トレーニングスコッドとして加入して、最初は練習についてこられないような選手でした。1シーズンが終わって、彼の中でチームにただいるだけではなく、『成長したい』、『勝ちたい』という思いが強くなって、今季はその姿勢がすごく良いほうに変化しました。試合に出たときは、特別なことではなく、自分のやることを100%やり切るというマインドでやってくれたと思います。スクラムハーフの大越元気もひさしぶりに出ましたし、彼らが自分のやれることをやってくれたのがチームを盛り上げたと思いますし、非常に良い仕事をしてくれました」

──プレーオフトーナメント準決勝についてはいかがでしょうか?

「最終節のS東京ベイさんに勝って、準決勝でBL東京さんにチャレンジしたいです。大きな学びを得たので、その学びを生かせるチャンスだと思います。悔しい思いをしたので、リベンジにもなります。(試合間隔が近いとやりづらいですか?)どうなんですかね?それは分からないです。BL東京さんのほうがどうか……という感じではないでしょうか。われわれはやりづらさは感じていないです」

東京サントリーサンゴリアス
堀越康介キャプテン

「監督の言ったとおり、BL東京さんにフィジカルの部分でプレッシャーを受けました。これだけミスをしてしまうと自分たちのやりたいラグビーはできませんし、相手の土俵で戦ってしまう部分が多かったので、次に向けての学びとして直していきたいです。前半最後にフェーズ数をかなり重ねてトライすることもできました。あれは東京SGとしてやりたいラグビーでもあるので、自信をもちながら、見直すところは見直してレベルアップしていけたらと思います」

──理想としては、前半はもっとテンポアップしたかったのではないでしょうか?

「やりたいテンポではありませんでした。BL東京さんのブレイクダウンの圧力の掛け方がうまかったです。手の使い方や、ペナルティにならない程度のプレッシャーの掛け方を研究されていて、対応が遅れました。後半はブレイクダウンの改善もあると思いますし、相手が疲れたということもあると思いますが、ボールキャリアーが一歩でも二歩でも前に出たことで、相手がブレイクダウンのプレッシャーを掛けられないシーンもあったので、あのようなプレーを続けていきたいと思います」

──スクラムについてはいかがでしたか?

「スクラムはうまく組めたと思います。組む前のギャップについて、相手のフッカーの原田衛選手と駆け引きはありましたが、大まかに言えば、自分たちの組みたいスクラムが組めました」

──ラインアウトでうまくいかなかった部分もありましたがその点についてはいかがでしょうか?

「僕の中で一番大事なのはセットピースだと思っていたのですが、その中でラインアウトをあれだけミスしてしまうと、自分たちのプランが何もできなくなってしまいます。次にどうするかが一番大事です。ラインアウトだと僕らは『100、100』と言っているのですが、100点のスローと100点のジャンプで次のS東京ベイ戦は100%の獲得率を目指していきます」

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